更新日:2020年04月05日
セルロースナノファイバーという言葉を、どこかで聞いたことがはありますか?これは、次世代の夢の素材と言われているもので、鉄よりも強度のある植物由来の素材です。資源がないといわれてきた日本ですが、日本は森林が豊かな国なので、資源を産出できるようになる夢の素材です。植物の繊維から、鋼鉄よりも硬い素材を作り出すことに成功しました。植物由来のカーボンニュートラルな素材です。種類がいくつかあって、「セルロースナノクリスタル」や、ここであげる「セルロースナノファイバー」「セルロースナノウィスカー」。そして、バクテリアを活用する「バクテリアナノセルロース」などがあります。特徴としては、鋼鉄の5分の1の重さで、鋼鉄の5倍以上の強度があります。温度に対しても強く、高温でも膨張しな意という特性や、マイナス200度からプラス200度まで変形が起こらないといったことがあります。透明な素材で、薄く膜状に加工できるといった特性もあります。製造方法としては、木材パルプを利用して製造します。いくつかの手法が研究されていますが、「ACC法」と言われるやり方は、原料と水のみを用いて木材パルプを微細化していく方法なので、天然セルロースで、環境に優しい方法と言えます。木材を原料としているため、再生可能な素材といえます。竹などを原料として使えば、自然の再生期間はかなり短期間で行われます。バイオマス産業とも言えるこの再生可能なセルロースナノファイバーは、使い終わった後も自然に戻るので、自然環境の負荷が少ない素材と言えます。木材の繊維を幅15ナノメートル程度まで細くし、微細化したものを漉いてシートを作ると、透明なプラスチックのようなものになります。これを利用してガラス、ゴムといったものとの複合材の開発が進められています。
<セルロールなのファイバーの特徴>
■軽量で弾性率がとても高い。
■温度変化に伴う伸縮は、ガラスと比べても遜色ない程度に良好。
■酸素などからのガスバリア性が高い。
■特徴的な粘性を持つ。
飛行機の素材や自動車の車体素材、建物などにも利用できる植物由来の強い素材です。セルロースナノファイバーの課題としては、その価格にあります。現状では、他の素材よりも費用が高いというところです。これを大量生産によってコストが下がれば、様々な場所で活用される道が広がっていくことは間違いありません。素材が植物であるため再生が可能である林業には、新しい活路を開くことができると思います。セルロースナノファイバーは、林業との関係もとても密接です。日本では戦後復興、住宅事情の改善のために、杉などの樹木を大量に植林した経緯があります。本来の用途としては、日本の住宅事情が悪かったため、そこに利用するための木材として植林をされていました。しかし、海外からの輸入材が安くなり、国内の木材が利用されなくなったために、森林の手入れが行き届かなくなり、林業が衰退していきました。夢の素材、セルロースナノファイバーの台頭は、林業を別の形で復活させる手段になるかもしれないと期待されています。日本の里山は、本来人が手入れをすることによって、自然な形を保ってきました。特に日本は、資源が少ない国ですが森林という豊かな自然という資源があります。その中でも林業は、いちばんの資源と言えます。高齢化などで衰退が激しい林業ですが、セルロースナノファイバーという様々な素材に利用可能な資源を、森林という日本最大の資源を活用することによって、日本国内でまかなうことができれば、林業の活性化のみならず新しい雇用を生み出し、経済の起爆剤となるのではないかと考えられます。
セルロースナノファイバーは、どのような用途に利用可能か?製品や素材の種類を含めて、可能性を考えてみます。セルロースナノファイバーの使用用途として、プラスチックの代替品であったり、化粧品、医薬品であったりがあげられています。透過性や強度を生かした防弾ガラスや、ショック防止剤など色々な用途があげられています。特徴として、水の中に分散させて乾燥すると、紙よりも強度のあるシート状のものを作ることができるので、電子基板の素材などで活躍が利用や、ガスバリア特性というものを利用して、医薬品の包装材など医療関係での利用も考えられています。ガラス繊維や炭素繊維の代替になる製品は、有力ではないかと考えられます。樹脂に混ぜ込んで強化プラスチックにして、それを利用した自動車や航空機などの車体や家電、建材として利用するとその効果は絶大です。それ以外にも、ボールペンのゲルなどといった内容物に使うことや、化粧品業界やトイレタリー業界からも注目されています。いちばんのネックがコストの問題です。現状の高いコストを、いかに低コストに変ていくかということが重要です。市場規模としては、2030年には1兆円の市場ができると考えられています。建材としての利用も可能と考えられていまが、そうなると、モバイルハウス(小屋)などで利用をすると、建物そのものがサステナブルで再生可能な、環境に優しい夢の住宅を開発することができます。強度も、通常の木材よりも強固なものができます。自動車の車体素材としても利用が考えられている素材ですから、トレーラーハウスのような、移動可能なモバイルハウス(小屋)を作るといったことにも向いていると思います。一般の住宅(世界の平均世帯数程度の人数が住むことが出来る)としての機能を持ち、軽自動車程度の金額で購入が可能なモバイルハウス(小屋)が、カーボンニュートラルなセルロースナノファイバーで出来ていて、再生可能バイオマスという事になれば、「生きるコストを下げる」ライフスタイルにぴったりの住宅となります。
→素材としては次のような素材が開発されています。
■ナノ複合材
樹脂やゴムなどに、セルロースナノファイバーを混ぜることによって、強度と軽量化を達成した部品が作れます。
■ガスバリアフィルム
ガスバリア性という特性を活かして、空気を通しにくいフィルムを作ることができます。食品の鮮度を保つフィルムなどに利用することが可能です。
■ゲル
セルロースナノファイバーは、チクソ性という通常では高粘度の固まった状態にあるものが、力が加わることによって撹拌したり柔らかい状態になったりして、そのままにしておくと元に戻る特性を持っています。これを利用すると、ボールペンのゲルインキや化粧品、食品などに利用が可能です。
→具体的に考えられる利用方法の記載していきたいと思います。様々な素材の代替用品として、自然由来のセルロースナノファイバーを利用できるのでとても魅力的です。日本には資源がないと言われていますが、森林は豊富です。日本が地産地消できる素材といえます。
■車体
京都大学では、現在鉄を使用している自動車の車体を、セルロースナノファイバーに置き換える研究をしています。セルロースナノファイバーは、乾燥させる時に大きさが10分の1に収縮するので、大きく変形してしまいます。このため、そのままでは自動車の車体のような、複雑な形状に加工するのが困難でした。その対策として、収縮しにくいプラスチックにセルロースナノファイバーを10%混ぜることにより、加工しやすく、鉄より軽く同程度の強度にできることが分かりました。ドア、ボンネット、フェンダーをセルロースナノファイバーに置き換えることで、車の重さが20%軽量化し、燃費を向上できると期待されています。自動車メーカーと製紙会社との共同開発が始まっています。
■タイヤ
従来の自動車のタイヤに使われているゴムには、カーボンブラックというものが混ぜてあります。このカーボンブラックは、発がん性が指摘されています。カーボンブラックに変わってセルロースナノファイバーを使うと、約2倍の引っ張りに対する強度が得られることが確認されています。セルロースナノファイバーのゴムは、顔料が自由に選べるため、色のついたタイヤを簡単に作ることができます。セルロースナノファイバーを利用することで、発がん性のない、軽くて強いタイヤが期待がされています。
■ガラス
セルロースナノファイバーは、透明化にも成功しています。そのため、性質を考えるとガラスとしても利用ができます。特に強度があるため、自動車の窓ガラスとして利用することが考えられています。
■ディスプレイ
タブレットやスマホなどのディスプレイの素材として、利用が可能です。太陽電池を貼って電源とすることも考えられていますが、太陽電池のパネルもセルロースナノファイバーを利用して開発されています。内部の部品やタッチパネルなどの部品も、セルロースナノファイバーで作ることが可能になっています。そのため、スマートフォン自体を、全てをセルロースナノファイバーで作れるということになります。
■スピーカー
スピーカーの音を発生させる部分として、振動板というものがあります。この振動板は、これまでパルプを利用していました。その部分にセルロースナノファイバーを混ぜることによって、更に高性能な音を再現できるようになるそうです。この技術は、ヘッドホンでも利用可能ということです。
■紙オムツ
セルロースナノファイバーは、重さの同じ一般的な物質と比較すると、表面積が大きいので、ニオイを捕まえることに効果的です。この性質を利用すると、消臭シートに織り込むことで、消臭効果が3倍になるそうです。このような消臭剤としての利用も期待されています。
■ボールペン
ボールペンのゲルと言われるインクには、粘性が必要です。セルロースナノファイバーには、チクソ性といわれる粘性があるため、この性質を利用することにより、性能の良いボールペンを作ることができます。
■日焼け止め
日焼け止めなどの化粧品には、増粘剤が利用されています。液垂れを防止するためには必要なのですが、べた付きの原因となります。その増粘剤に、チクソ性のあるセルロースナノファイバーを使うことで、べた付き解消することができると考えられています。
■食品用包装材
セルロースナノファイバーをシート状にすると、繊維間の隙間がほとんどないので、ガスバリア性が高く酸素を通しにくい性質があります。その特性を活かして、食品用の包装材としての利用が考えられています。
■その他
食品や医薬品の包装、人工血管、軟骨といった医療分野や食品添加物などで応用できるのではないかと、研究が進められています。