更新日:2020年04月04日
発展途上国では、地上に既存の通信設備がないため、「4G」を飛び越えて、「5G」のインフラがダイレクトに整備される可能性があります。リープフロッグ現象と言われるものです。地上の通信回線を設けずに、高速通信を実現する取り組みをご紹介します。衛星電話の可能性も考えていきたいと思います。
■Google(グーグル)の「Project Loon」
アルファベットのX社が行うプロジェクトルーンは、気球型の通信設備を打ち上げて、至るところでインターネット接続を可能にすることを目標に掲げたプロジェクトです。気球に搭載された中継装置を成層圏に浮遊させます。現在、LTE通信に対応していて、10Mbpsの通信速度を達成する技術確立を行っています。成層圏に浮遊させるというのがポイントです。1機の気球で、直径約40kmの範囲をカバーできるようになっています。通信衛星を使っての移動通信とは一線を画し、ローコストで行うことを目的にしています。気球は気流によって流されてしまいます。その部分を、気流のデータから計算することで、カバー範囲を複数の気球でうまくコントロールしながらサービスを提供します。アフリカでのサービス提供も見えてきました。現地の通信キャリアと提携して、通信網を引かずに通信サービスを提供できるようになります。通信未開の地でも、一気に4Gのサービスが受けられるようになるという点は、発展途上国の情報格差(デジタルデバイド)を解消することに寄与します。情報格差の解消は、知識や教育水準の向上につながる可能性が高いため、長期的な視点に立つと、所得も上がるのではないかと考えられます。これまで難しかった発展途上国のインターネット網が整備されれば、世界の貧困の格差も縮まる一歩になるのではないかと考えられます。GoogleがスペースXに数千億円規模で出資を行っています。Googleの技術とスペースXの人工衛星の技術提携を進めているそうです。
■Facebook(フェイスブック)の「Aquila」
Facebookでは、これまで飛ぶインターネットドローン「Aquila」の飛行テストを続けてきました。実験に成功していましたが、打ち切りとなってしまったプロジェクトです。今後は、打ち上げコストや宇宙ゴミの観点から、欧州宇宙局(ESA)が推奨する高高度疑似衛星(High-Altitude Pseudo-Satellite、HAPS)への協力を示しているそうです。高高度疑似衛星(HAPS)とは、成層圏で運用されている衛星通信を置き換えるためのもので、例えば、ロケットと人工衛星の組み合わせではなく、気球や飛行船ドローン、航空機などを利用するものを指します。通信衛星を打ち上げるのに比べて、コストがとても安く済みます。地域ごとにWi-Fi環境を整備できるというメリットもあります。HAPSの運用高度は約2万メートル(民間航空機は約1万メートル)で、この高度から直径500km以内がマイクロ波で圏内とできるため、Wi-Fi環境を整備することができます。ソーラープレーンなどであれば、太陽電池で発電した電力で半永久的に運用ができるため、中継機材などを搭載したものを成層圏に常駐させることによって、通信、放送に利用するといった「成層圏プラットフォーム計画」が存在しています。
■衛星電話の現状
現在、国際的に商用サービスを展開している通信サービスは、人工衛星による通信のサービスになります。これは、通信衛星と直接通信することによって成り立っているサービスです。地上に通信設備がなくても通信が可能なため、世界中で利用されています。現在のサービスは、高度3600キロの静止軌道にある静止衛星を利用したサービスです。インマルサット、スラーヤ、ACeS、日本向けのサービスとしてはワイドスターと呼ばれるサービスがあります。静止軌道に対して、地球表面から高度2000km以下の場所である地球低軌道(LEO)を飛ぶ低軌道衛星を用いたサービスとしては、イリジウムがあげられます。これらのサービスにはデメリットも多く、静止衛星を使うと地上との距離が約3600kmという関係で、通信にタイムラグが発生します。通信速度も地上の通信速度に比べて低く、まだまだインターネット回線として使うには不便が発生します。投資も膨大となるために、倒産する企業も相次ぎました。
発展途上国の通信の本命は、現地にインフラが引かれることだと思いますが、衛星を使った通信への期待も高まっています。そこで、衛星を使った通信の未来について考えてみたいと思います。
■衛星通信を使ったインターネットについて話を始める前に、人工衛星の事を少し記載したいと思います。人工衛星は飛ぶ軌道によって、呼び方や役割が分かれています。地球低軌道(LEO)は、地球表面から高度2000km以下の軌道を指します。これは低軌道衛星と呼ばれています。次に、地球中軌道(MEO)は、高度2000kmから36000km未満の軌道を指します。この軌道を飛ぶ衛星は中軌道衛星と呼ばれています。そして最後に、地球静止軌道(GEO)は高度36000km前後の軌道を指します。この軌道において赤道面内(軌道傾斜角が0)の衛星は、常に同じ位置に静止して見えるので、この軌道を飛ぶ人工衛星を静止軌道衛星と呼びます。静止軌道以外の軌道をまとめて非静止軌道(NGSO)と呼びます。このように地表からの距離によって、軌道の名称が違います。地球低軌道(LEO)の場合、地上に近いメリットとしては、通信のタイムラグが少なくなります。しかし、カバーできる面積が狭くなるというデメリットもあります。そのため多くの通信衛星を打ち上げてカバーしなければいけません。その代わり軌道まで飛ばす距離が短いので、運搬費用は安くなります。逆に、高軌道衛星は、通信のタイムラグが大きくなりますが、カバーできる範囲は広くなります。衛星の運搬費用は、遠くまで飛ばすために高くなります。
■衛星通信によるインターネットの中で、今、いちばん本命と言われているのが、SpaceXの「Starlink」プロジェクトです。これは、低軌道衛星を用いたインターネット衛星通信サービスです。たくさんの低軌道衛星を打ち上げ、人工衛星群を作り、衛星コンステレーションと呼ばれる衛星群同士の通信を行って、地球上の多くの地域をカバーするサービスです。しかもその衛星の数が膨大です。既に認可された衛星の数は、高度340km前後を飛ぶ衛星が7500機程度、高度200km前後を飛ぶ衛星が4425機程度で、これまでに打ち上げられた衛星の数と比べると、かなり膨大な数になります。この細かな人工衛星網を小刻みに連携させることによって、高速なインターネット衛星通信サービスを提供しようと考えています。実際のサービスは月額5000円程度を想定しており、ノートパソコン並みの(100ドルから300ドル程度の)受信用アンテナで受信することが可能なサービスを目指しています。ギガビットレベルの通信が可能となる予定です。この小型の人工衛星は、一機あたり400kgと大変小型です。インターネット通信以外にも、衛星写真サービスや航空測量などが可能となっており、寿命は約5年を想定しています。運用終了後は大気圏に突入して焼却されます。一機あたりの通信帯域は20Gbpsなので、12000機を運用すると20Gbps×12000機で240000Gbps(240Tbps)となる計算です。SpaceX社が開発したファルコン9ロケットでは、1回につき25機程度を打ち上げられます。実際にこれだけの衛星を立ち上げようとすると、最大で177回の打ち上げが必要になります。人工衛星の寿命が5年のため、5年で計算すると、年間あたり36回の打ち上げが必要です。ファルコン9より大型のファルコンヘビーロケットであれば、1回につき40機の打ち上げが可能になるため、最大で112回の打ち上げが必要となり、年間で22回の打ち上げとなります。SpaceX社ではさらに大きな「BFR」というロケットの開発も行なっています。必要なコストは100億ドルから150億ドルと試算されています。ロケットの打ち上げ性能、すなわちペイロードについてですが、ファルコン9は約20トンです。これはアメリカの主力ロケットであるデルタ IV、アトラス V、過去に運用されていたスペースシャトルや、ロシアの主力ロケットであるプロトンM、ヨーロッパのアリアン5、日本のHⅡBと概ね同程度のペイロードになります。それに比べてファルコンヘビーは60トンのペイロードがあり、現在運用されているロケットの中では最大級のペイロードとなります。過去に遡れば、アポロ宇宙船を打ち上げたサターンVが120トンというペイロードでしたが、コストを考えると現状、これほど大きなペイロードのロケットはありません。「BFR」は100トンのペイロードを目指す予定です。光ファイバー網と比べて、人工衛星によるブロードバンドの良い点は、伝達速度が変わらないことです。光ファイバーにはカントリーリスクなど、さまざまな制約がありますが、人工衛星を使ったインターネットは、そのような制約を受けにくいという点が挙げられます。デメリットとしては、人口密集地帯で利用が多くなるとオーバーロードする可能性があること、また天候やスペースデブリといった問題もあります。