「未来の農業」として期待される循環型農法「アクアポニックス(魚養殖と水耕栽培一体型)」。真水でも海水魚が育てられる?今後の養殖の未来を左右する淡水魚と海水魚のマス、ヒラメなどを同居して養殖する方法と、循環型農業の未来を考えます。

更新日:2020年03月28日

低負荷な新しい農業、循環型農業とは?

環境に対して低負荷といわれる新しい循環型農業と、食の自給について考えてみます。飽食の時代、昔の自給自足だった頃のように、自分で所有している田畑で取れたものだけで、全ての食事ををまかなうことは、大変ハードルが高いと思います。しかし、衣食住を自家生産する試みは、これから社会保障の低くなる時代に、とても大切なことだと思います。大規模な農業は難しいと思いますので、もっと個人的な小規模な農業に考えていければと思います。更に、自然への負荷を低くして安全なものを食べるために、農薬も使わない持続性のある農業を考えます。農薬を使わないのであれば、例えば、植物工場のように密閉された環境を作ることはひとつの手段として有効です。小規模で行うためには、コストを下げなければいけません。農薬の問題もですが、肥料の問題もあります。化学的な肥料を使わないで、野菜の生育を促進させるのであれば、混合農業のように家畜の排泄物を肥料として利用して野菜を育てて、その育った野菜の可食部以外を家畜の飼料にするというような循環を作らなければいけません。他にも、日本に古来から伝わる水田のように、水耕栽培(ハイドロポニックス)をして土地の疲弊を抑えなければいけません。いま注目されている方法としては、植物工場で利用されている水耕栽培で行う方法です。更に進化させた「AQUAPONICS(アクアポニックス)」という方法があります。土を使うと土壌の疲弊が起こります。そこで、土の代わりに疲弊の起こらない水耕栽培で野菜を育てます。養分をどうするかということですが、水耕栽培で使う水で魚を育てて、魚から出る排泄物を養分として循環させることで、有機物のやり取りを行い野菜を育成させるのが、アクアポニックスと農法です。閉鎖された環境で行うと効果的な農業で、野菜への肥料を使う必要なく、野菜のビタミンと魚のタンパク源を同時に取れる農法となります。昔であれば、家畜と小麦を陸上で混合農業として行っていましたが、その水耕栽培バージョンといったところです。魚を育てるということは、同時に養殖を行うことになるため、魚を考慮すると必然的に無農薬になり、肥料を使った土壌作りの必要もありません。水資源が乏しい地域でも。使う水をほとんど再利用しますのでとても効率的です。水耕栽培と言うと最初に思いつくのがお米です。土は必要となるため完全な水耕栽培ではないですが、お米は主食の地域が多く、米粉に加工するとパンのような製品も作ることができます。収穫量が高いので、アジアの人口を支えているのはお米のお影と言われるくらいです。お米は、連作障害の起こりにくい珍しい作物です。水耕栽培で育てることが出来る野菜は、葉物野菜が基本的に適しています。レタスであったり、バジルであったりといった野菜です。トマトなども水耕栽培に適していると言われています。キャベツや白菜なども水耕栽培を可能なようですが、かなりハードルは高いようです。根菜類は水耕栽培ではほとんどうまくいかないので、他の野菜で代替する方法を考える形になると思います。魚の養殖の方に目を向けると、いちばん飼いやすいのはティラピアと言われています。マスやコイ、ナマズなども比較的育てやすい魚です。土壌の疲弊を考慮しなければいけませんが、養殖で出た養分の高い水を使った土壌栽培とのハイブリッド農法も考えられます。アクアポニックスは、ある程度密閉された場所で行わなければいけませんが、それには理由があります。農薬が使えないということは、害虫から野菜を守らなければいけません。密閉することによって農薬を使わずに害虫から野菜を守ることができます。密閉された空間は、アグリテックの技術などを応用することで、温度や日照時間などの管理をしっかり行うと、通常の土壌農業よりも行いやすい側面もあります。水耕栽培は土壌栽培に比べて成長が早いのというメリットもあります。プランターを多段階に組むこともできるので、少ないスペースでも効率的に栽培することも可能です。水耕栽培には、次の様な方式があります。
■DFT式
一般的な水耕栽培のシステムです。エアーなどを使って、酸素を供給しないと根腐れを起こします。
■NFT式
パイプ内を水が循環して、空気を取り込みながら養分を与えられる方式です。
■Aero式(エアロポニックス)
空気中に養分を噴霧する形です。システムがいちばん複雑で高価ですが、根菜類が作れたり、成長がとても早いといったメリットがあります。

植物工場や水耕栽培は、まだ難しい問題が山積しています。特にコストの問題があります。その流れを汲む、アクアポニックスも更なるイノベーションによって効率的な農業にしていかなければいけません。栽培できる野菜や、養殖できる魚には、改善の余地がありますが、ビタミンとタンパク源と日本人としては主食である米を作れるという意味では、密閉型のアクアポニックスの可能性は、自家生産で食のセーフティーネットを守る意味では可能性を感じます。海水魚と淡水魚の同時養殖という研究も進められています。海水魚の方がバラエティが豊富ですので、新しい養殖に繋がるかもしれません。自家生産では、カロリーベースで最低限を確保して、それ以外の部分は流通を使って、これまで通り対応するという形が考えられます。例えば、肉であったり卵であったり、そういう動物性のタンパク源も考えなければいけない問題です。しかし、生きていく上で必要な最低限のビタミンやタンパク源を自家生産できるようになれば、農業で生計を立てていた昔の日本と一緒になります。今回の考え方が違うところは、それを効率的に行いかつ自動化することです。農業が主要な仕事でない方が多い現在、農業だけで畑仕事をして食べ物を食べるという生活は、マッチしづらいと思います。それを自動化し、安定的に自家生産できる状態にできれば、これからの働き方とマッチするのではないかと思います。

循環型農業の切り札、アクアポニックス。海水魚と淡水魚を同じ水槽で養殖することの可能性。

アクアポニックスは、野菜の栽培と養殖を同時に行う農業の形です。未来の農業と言われていて、水耕栽培による野菜の栽培と、その水を利用した養殖を同時に行えます。養殖した魚から出た排泄物は、微生物によって分解され、野菜の栄養となり成長を促進します。通常の栽培の2.5倍の収量が期待できるという、研究もあります。連作障害が起こりずらい点や、水資源を無駄にしないという利点もあります。魚に餌をやるだけで、肥料や農薬を使わないで生態系の循環を再現するので、密閉された環境で行うことで、害虫などの侵入を阻止した有機栽培が可能となります。

アクアポニックスを含む水耕栽培で、比較的簡単に収穫可能な野菜をあげておきます。水耕栽培は根菜類や結球野菜の育成が基本的に苦手です。エアロポニックスを利用するなどして、生産されているところもあります。

<水耕栽培向け野菜>
■小松菜■春菊■稲■グリーンウェーブ■マザーグリーン■マザーレッド■ルッコラ■エンダイブ■アイスプラント■バジル■パセリ■ミニトマト■ペテュニア■クレソン■セイジ■チャービル■パクチー■コリアンダー■ケール■ディル■ロメインレタス■レモンバーム■ディッシュ■ベビーレタス・ミックス■ベビーオーク■ベビーケール■ベビーリーフミックス■ベビールッコラ■ベビーエンダイブ■ロロロッサ■グリーンロメイン■グリーンオーク■ロログリーン■レッドロメイン■ブロッコリースプラウト■もやし■豆苗■水菜■リーフレタス■ネギ■ルッコラ ロケット■レモンバーム■ワイルドロケット セルバチコ■スープセロリ■ハーブ セロリ■サラダバーネット■ミント■ルッコラ ロケット■ワイルドストロベリー

<一人当たりの米の年間消費量>
■米:283.4杯×65g(最大:熊本県433.5杯/最低:三重県218.2杯)
※総務省統計局「家計調査」、小売物価統計調査参照。

<一人当たりの野菜の年間消費量>
■キャベツ:5.87玉×1kg(最大:佐賀県8.22玉/和歌山県:4.51玉)/年
■はくさい:1.10玉×2kg(最大:京都府1.63玉/岩手県0.71玉)/年
■レタス:5.90玉×300g(最大:千葉県8.39玉/岩手県3.83玉)/年
■ブロッコリー:3.72株×300g(最大:神奈川県4.98株/最低:宮崎県2.50株)/年
■ほうれん草:2.92束×250g(最大:秋田県4.92束/最低:熊本県1.60束)/年
■かぼちゃ:1.07個×1200g(最大:佐賀県1.60個/最低:青森県0.78個)/年
■きゅうり:19.5本×100g(最大:埼玉県28.4本/最低:沖縄県12.9本)/年
■なす:10.8個×90g(最大:青森県18.6個/最低:沖縄県6.1個)/年
■トマト:21.6個×200g(最大:埼玉県35.8個/最低:岐阜県14.6個)/年
■ピーマン:20.2個×40g(最大:28.3個/富山県14.2個)/年
■豆:720円(最大:新潟県1898円/最低:山口県316円)/年
■ねぎ:17.5本×90g(最大:秋田県28.3本/最低:沖縄県10.1本)/年
■たまねぎ:21.5個×200g(最大:京都府26.9個/茨城県11.3個)/年
■だいこん:3.76本×1kg(最大:秋田県5.50本/最低:愛媛県2.41本)/年
■にんじん:11.1本×200g(最大:沖縄県16.8本/最低:茨城県7.9本)/年
■ごぼう:3.10本×150g(最大:佐賀県5.82本/最低:高知県1.82本)/年
■れんこん:1.42節×200g(最大:佐賀県3.12節/最低:沖縄県0.30節)/年
■さつまいも:3.06本×200g(最大:徳島県7.71本/最低:鳥取県1.58本)/年
■じゃがいも:24.0個×100g(最大:鹿児島県32.0個/最低:茨城県17.6個)/年
■さといも:8.9個×50g(最大:福井県24.2個/最低:青森県2.2個)/年
■もやし:8.7袋×250g(最大:北海道14.5袋/三重県6.1袋)/年
■しいたけ:27.7個×15g(最大:秋田県54.8個/最低:沖縄県13.5個)/年
■しめじ:0.89kg(最大:長野県1.39kg/最低:岩手県0.49kg)/年
■えのきたけ:0.89kg(最大:長野県1.99kg/最低:岩手県0.49kg)/年
■たけのこ:249円(最大:京都府750円/最低:沖縄県97円)/年
※総務省統計局「家計調査」、小売物価統計調査参照。

<アクアポニックスに向きの魚類>
■うなぎ■鯰■ティラピア■コイ■にじます■アユ■ウグイ■キンギョ■スッポン■ウシガエル■ドジョウ■ボラ■フナ

現在、海水魚と淡水魚を同時に養殖する方法も研究されています。同時養殖が可能になれば、海水魚の養殖も可能になると言われます。実際に淡水魚と海水魚を同時に飼育したアクアポニックスの研究もされています。

<淡水魚/海水魚のメジャーな養殖魚>
■フサカサゴ科:クロソイ・メバル
■アジ科:ブリ・カンパチ・マアジ・シマアジ
■ウナギ科:ウナギ
■アナゴ科:マアナゴ
■オニオコゼ科:オニオコゼ
■コイ科:コイ・ギンブナ
■タイ科:マダイ
■ドジョウ科:ドジョウ
■アカメ科:ナイルアカメ
■スズキ科:スズキ・タイリクスズキ
■カワスズメ科:ナイルティラピア
■アユ科:アユ
■イシダイ科:イシダイ
■サケ科:タイセイヨウサケ・ニジマス・イワナ・マスノスケ・ヤマメ・アマゴ
■ハタ科:マハタ・チャイロマルハタ
■サバ科:ミナミマグロ
■ヒラメ科:ヒラメ
■カレイ科:ホシガレイ
■フグ科:トラフグ
■貝類:ホタテガイ・マガキ・ムラサキイガイ・アワビ
■甲殻類:クルマエビ
■海藻類:ワカメ・コンブ・ノリ・モヅク
出典:http://shimura.moo.jp/osakana3/27.htm

養殖とは関係ありませんが、どのような魚や肉が好まれているのか、更には調味料も参考になるように、一人当たりの年間消費量掲載をします。加工品以外(調味料除く)のものになります。

<一人当たりの魚の年間消費量>
2:まぐろ2.04柵×200g(最大:5.12柵)/年
11:かつお:1.26柵×200g(最大:5.45柵)/年
6:ぶり:4.9切れ×100g(最大:10.7切れ)/年
3:鮭:7.8切れ×70g(最大:13.4切れ)/年
14:いわし:2.78匹×100g(最大:6.36匹)/年
7:あじ:2.66匹×150g(最大:5.34匹)/年
5:さんま:2.01匹×150g(最大:4.85匹)/年
9:さば:2.71切れ×100g(最大:5.51切れ)/年
10:かれい:390円(最大:1015円)/年
15:鯛:1.00切れ×100g(最大:8.34切れ)/年
1:いか:4.6匹×100g(最大:8.8匹)/年
13:たこ:1.64本×100g(最大:2.89本)/年
4:えび:20尾×15g(最大:40.1尾)/年
12:かに:594円(最大:1969円)/年
8:あさり:218g(最大:399g)/年
しじみ:159円(最大:1168円)/年
牡蠣:5.5個×15g(最大:25.1個)/年
ホタテ貝:101g(最大:390g)/年
※総務省統計局「家計調査」、小売物価統計調査参照。

<一人当たりの肉の年間消費量>
牛肉:2.60kg(最大:和歌山県5.88kg/最低:岩手県0.95kg)/年
豚肉:4.10kg(最大:鹿児島県5.19kg/最低:徳島県年間3.10kg)/年
鶏肉:3.72kg(最大:鹿児島県5.95kg/最低:石川県2.42kg)/年
卵:142.2個(最大:鹿児島県178.9個/最低:山形県112.9個)/年
※総務省統計局「家計調査」、小売物価統計調査参照。

<調味料>
■食塩:1.39袋(最大:福島県2.31袋/最低:愛媛県0.98袋)/年
■砂糖:2.01袋(最大:鹿児島県3.13袋/最低:沖縄県1.32袋)/年
■しょう油:2.45L(最大:宮城県3.78L/最低:沖縄県1.25L)/年
■みそ:1.81kg(最大:鹿児島県4.10kg/最低:和歌山県1.00kg)/年
■酢:1.25L(最大:鹿児島県2.24L/最低:岡山県0.65L)/年
■ソース:546mL(最大:広島県1049mL/最低:岩手県348mL)/年
■マヨネーズ:1.74本(最大:滋賀県2.55本/最低:沖縄県0.87本)/年
■ケチャップ:0.99本(最大:埼玉県1.40本/最低:福井県0.74本)/年
■食用油:4.61本(最大:奈良県6.14本/最低:兵庫県3.35本)/年
※総務省統計局「家計調査」、小売物価統計調査参照。